シルクと絹と三味線と。

TMandTMを紹介するとき、いつもシルクの魅力についてお話をさせていただいているのだけど、そのなかでもとても驚いてもらえるくだりがあります。

 


繊細に美しい印象が広く知られるシルクが、実はかつてはWW2下の米軍がパラシュートに採用していたほどに天然繊維のなかでも群をぬいて丈夫であること。繊細な印象の強いシルクにそんなファクトがあったなんて意外ですよね?



一方この絹のしなやかさやコシを存分に活かして現在も採用されているのが三味線。3本からなる三味線の弦が絹製なことは周知の事実。シルクが華やかにいきづく、めくるめく三味線の世界をのぞきに、三味線のプロフェッショナル・創業以来京の地に店を構え、芸能芸術を支え続ける老舗 今井三弦店の今井氏を訪ねました。



Profile
今井伸治
今井三絃店 代表



三味線の魅力
夕刻どき、祇園の街を歩けばそこかしこからきこえる三味線の音色。弦を引くと鳴るその伸びやかな発音、そして胴を自在に駆け巡り共鳴する奥行きを放つ不思議な音色。弦楽器のなかでも打楽器的な要素を併せ持ち、さらには唄があってこそ、の唯一無二な存在。お琴の音色(=琴線に触れるということわざがあるくらい)とは対照的な“張りつめていない”方の緊張感は文楽を頂点として三味線が御座る世界の文化性の高さゆえ。




ーあの、ぎをん“都をどり”では三味線の門番でいらっしゃるそうで。



今井:この頃はこういうご時世で、2回連続で中止になってしまいましたが。もともとはうちが演者さんすべての三味線の弦の張替え、調弦、その他メンテナンスを一手にお任せいただいているんです。事前準備だけでなく、公演中ずっと、どんなことにも対応できるよう裏で控えています。



ーちなみに何丁くらいの三味線をみられているのですか?



今井:およそ10丁。公演は1か月にわたり、1日が4回まわし。となると、多い時では40本以上の糸を替えています。





耳と目と感触で丁寧に調弦していく。




ーわ。それはすごい。どれもなくてはならないものですが、都をどりで三味線は絶対不可欠。とても重要なミッションを抱えてらっしゃいますね。市井の人間としてとても下世話な質問ですが、“あの”祇園の主役たちが一堂に会する現場ならではのドラマを事細かに目撃されているということでしょうか?



今井:。。。。(眼光鋭く)。。。。



ー大変で過ぎた質問をしてしまいました。申し訳ありません。では、さて、三味線は祇園はじめ花柳界との蜜月のみならず、例えば伝統芸能である“文楽”でも大変に重要な役割をになっていますね? 花柳界や民謡といった世界と文楽の世界では楽器としての違いはありますか?



今井:文楽・つまり義太夫の三味線もお世話させてもらっていますが、たとえばバチ。たとえば弦。太さや幅が違います。弦も一番右側の太いのは義太夫のためのもの。




滋賀県で伝統的技法を守りながら丁寧につくられている絹製の弦。用途によって太さが異なる。




ーこの弦、絹製なのですよね?それで今日はうかがったのでした。この絹、なぜ黄色いのでしょうか?そして、洋服につかう絹とは何が違うのでしょうか?



今井:黄色いのはターメリック(=ウコン)で染めているから。ご存知の通り、ウコンは自然の防虫剤で、やっぱり絹には虫がつきやすいからそれを防ぐためというのが由来だと思う。伝来してきたのはもともとインドで、ターメリック大国だし、それに意匠的な部分でも、本体に合わせたトーンオントーンのカラーパレットとしても美しいという理由で三味線の弦は黄色になっているらしい。衣服でつかうシルクとの違いでいえば、シルクってのはもともと天然資源の繊維のなかでも最上ランクにタフな繊維、ただもともと繊維の外側を覆っているセリシンに熱を加えて剥がしてつかっているのが衣服用の絹。その外側の強度を活かして弦をつくるのがこの三味線用の絹。



ー人間の創意工夫の知恵ってすごいですね。科学的な根拠なく経験でさまざまな方法論を生み出してきた先人を敬います。さてさて、少しお話をうかがっただけでも三味線を構成する材料について興味がマグマのように湧いてきました。




材料を見極める
伝統文化を支えるものづくり、近代においては分業化の道を辿っていくのが常。しかし今井氏はいまだに全行程をご自身で執りしきり、販売も行っている。となると棹や胴など骨格となる木工、胴の貼る皮革、三味線の要である弦やバチ。工芸の多岐にわたるジャンルをひとところで担うということが驚きだ。どうやって会得してどうやって作業しているのだろう。




ーアットランダムで構いません、三味線のためにさわられている原料を教えてください。



今井:うーん。まず木。木材でいうと紅木(=コウキ)、紫檀(=シタン)花梨(=カリン)。硬い木は響が良い。そして三味線はフレットがないから、手で触る部分がどんどんすり減ってくる。それに歪みは音の狂いになる。だから硬さがとても重要なんです。最上級が紅木。水より比重が重くてすぐ沈む。紅木という名前だけあって着ている服がどんどん赤茶けてくるんですけど。笑 荒木からノコギリで削り出し、カンナで成形していく。だけど硬くて普通のカンナなんて通用しないから、引くでも押すでもなく添える感じで用途ごとにカンナを使い分けています。





見せていただいたカンナたち。ほぼほぼ直角に刃が立っていたり、90度を超えて逆刃になっていたり、どれも初めて見るカンナたち。




ーこれだけハードな木工をやられるのであれば、日曜大工なんかは朝飯前では? 笑



今井:いや、まったくやらんですね、日曜大工。仕事でやってますし、やはり普通の木材なんてやわらかいのなんの。指で削れるんちゃうかなくらいの。笑 あ、でも娘の夏休みの課題は手伝っていました、時効ですから言いますけどね。笑



ーちなみに最後の仕上げに向けて、番手あげてサンドペーパーとか使うのでしょうか? だって、棹は上中下の3分割、且つ継ぎ目がまったく分からないくらい精巧につくられていますよね?



今井:ペーパーは基本的に削るときに使いますね。そして磨きには砥石を。漆を入れた後、仕上げで磨くときには砥石をミクロンレベルまでこまかーくした砥の粉を使ったり、あとバチのべっ甲を磨くときには鹿の角の粉末を。ちなみに鹿でいうと皮はポリッシャーとして使っています。どの天然皮革より柔らかくて繊細かつ丈夫で。





砥の粉を使って磨いていく様。まるで愛娘を愛でるような丁寧な手元にしばし見惚れてしまった。




今井:いまや様々な事情から合成原料や代替素材も受け入れていく必要がある時代になりました。天然資源でもそれぞれに個性があり、それをさわるときにはとにかくどんなものなのか、それをどうやったら最大可能な三味線になるのか、を感覚的に見極めながらしつらえます。





胴の張り替えを見せていただいた。糊として使うのはなんと白玉粉。





鍛錬した感覚を頼りに破れる限界まで皮を張る。




ー最終仕上げや、メンテナンスは?



今井:漆です。漆を入れてから、砥の粉で磨き完成です。







ー土間にあぐらをかき、相当な力仕事や繊細な仕上げなど多様な作業をされていますね。作業着としてはどんな条件をお持ちですか?



今井:まずはリラックスできて、丈夫なこと。結構冬場でも汗をかいたりするので快適さも大事な条件です。うちは作業場でもあり販売所でもあるのですが、お客様をお迎えするのに着飾るということはしていません。笑



ーうわ、それは我々のようなブランドがベストアンサーな気がします。シルクって吸放湿性が高くて丈夫、そして隠しても隠しきれない本質的な光沢があり、ただのTシャツでも“違い”が出てしまうんです。いまお召しのロンTはいかがですか?



今井:うん、普段のを着ている感じでとてもストレスなく馴染んでいます。袖のところが少し変わっていて、“こだわっている”感じが言葉なく伝わるところもいいですね。



ーありがとうございます、光栄です。まだまだ伺いたいことが山積みですが、そろそろお時間ですよね。最後に外の空気を吸いに行きましょう。

 

古都の街なみとともに

今井:うちはもともとこの作業場が住居でもあったんです。でも流石に100年越えると住むには課題があって。ここらへんはね、もともと川がながれていたので京都にしては小径つづきで。うねうねしてるでしょ、川の名残りなんです。風情があっていいよね、色々なドラマがあったのでしょう。


春の訪れ、梅の花咲く小径を散歩。



一時間のインタビューを終え、最後に表に出ていただいて地元ガイドをしてくださった。すこしいたずらっ子みたいに街の歴史を教えてくれたり、秘密の撮影スポットを教えてくださったり。ともすれば日本の伝統芸能の支え手として肩の力が入りがちな要職を担う立場とは思えぬ終始自然体な姿に、生活の中に自然と脈々と受け継がれた本質を垣間みたのでした。



Long Sleeve T-shirts ¥20,900(税込)

PJs Shirts ¥42,900(税込)




シルクと絹と三味線と。